鎌倉時代から拡大した念仏信仰
奈良時代以降に発生した仏教は、大きく「法華経」と「浄土系」とに分けることができます。
それまでは官僧のための教養や資格として用いられてきた仏教の経典が、末法思想の広がりにより庶民の間にも広く知られるようになったことがきっかけです。
浄土信仰とは、ごくごく簡単にいえば念仏を唱えることで誰でも仏の元に召されることができるというもので、世の中全体に不安を感じていた庶民たちの間に自然に浸透していくことになりました。
浄土宗の開祖は法然上人で、「南無阿弥陀仏」という阿弥陀如来への念仏を唱え続けること(専修念仏)により大きな慈悲で救ってもらえるという「他力本願」という思想がベースになっています。
後に法然の弟子であった親鸞が浄土真宗を開きますが、浄土宗が阿弥陀如来以外の信仰や修行法も認めているのに対し、浄土真宗では徹底して阿弥陀への信心を説いているというところに大きな違いがあります。
天台宗や真言宗のような密教が「自力本願」により厳しい修行や悟りによって仏への道が拓けるとしたのに対し、浄土宗の専修念仏は疑いなく念仏を唱えるだけで修行や学問の必要なく救われるとしてるので、基本的には戒律は緩めです。
現在の浄土宗は大きく5派がかつて存在していましたが、現在大きな勢力となっているのは鎮西義という分派です。
鎮西義ともう一つ西山派というものが長く残ったのですが、明治維新後にこの勢力は一旦一つにまとめり、それが戦後になって再び2つの宗派に別れたという歴史があります。
松明を模した宝具を使う浄土宗の引導
浄土宗の葬儀において大きな特徴となっているのが「松明」をモチーフにした宝具が使用されるということです。
昔は本物の松明に火をつけて葬儀をしていたといい、故人の霊をあの世に迎えてもらう引導において松明が重要な位置づけとされてきました。
現在では安全面の都合もあり、赤く装飾をされた棒状のものを使って祭壇に円を描くような動作を僧侶が行います。
浄土宗における引導では僧侶が専用の呪文を唱えながらこの松明を三回振るというのが儀式となっています。
これは「あの世とこの世を渡す」「悪霊を退ける」「煩悩を焼き尽くす」という3つの意味を持つものとされており、いずれも葬儀という儀式では大変重要な役割です。
儀式においては松明の法具を二本用意し、途中で一本を捨てるようにします。
これは「厭離穢土」を示すもので、残ったもう一本が「欣求浄土」へ導くために円相を描きます。
この引導の儀式の後には参列者が順番に焼香をすることとなっており、ともに故人の導きを祈るということになります。
浄土宗の焼香回数は1回でも3回でもよいとされていて、厳しく作法が定められるいるわけではありません。